台湾

なぜ台湾のコロナ対策は成功したのかまとめてみた

ユウ

先週5月8日、台湾のプロ野球では観客の導入が開始されました。ソーシャルディスタンスを確保するため1試合1000人までという制限付きではありますが、台湾では新型コロナ対策が奏功し、徐々に人が集まるイベントが再開され始めています。

日本における新規感染者数は、最近だいぶ減少してきて、やっと収束が見えてきたかもしれないといった状況ですが、台湾では30日間連続で新規感染者数は0人です。なお、台湾全体の感染者数は440人ですが372人はすでに回復し、隔離状態から開放されています。


都市のロックダウンも実施されておらず、市民は感染に気をつけながらも従来のライフスタイルを維持しています。もちろん街の食堂やレストランは従来どおり営業しており、学校では授業も行われています。

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現在の台灣の政府を簡単に紹介

まず、前提として、今回の新型コロナ対策で高度なリーダーシップを発揮した台湾政府について紹介します。

台灣は、お隣中国大陸と異なり完全に民主主義の国です。4年に1度選挙が行われ、台灣の大統領は国民により直接投票で選ばれます。投票率は毎回約80%ほどあり、国民の政治への関心の高さが伺えます。

海外に住む台湾人が選挙で投票をするために帰国をしたり、住民登録している地域へ帰ると行ったことはよくあることのようです。投票率が約50%ほどの日本とは大違いですね。

また、シンガポールのように民主主義にも関わらず、実は人民労働党しか与党になったことがないといったような事実上の独裁となっているわけではなく、総統直接選挙が1996年に開始されてから3度の政権交代を経験しています。

最初に紹介するのは総統の蔡英文さんです。台灣初の女性総統で台灣独立を支持する民進党の党首です。台湾の最高学府台湾大学の法学部を卒業し、英国のロンドン・スクール・オブ・エコノミクスで法学博士を取得されました。

帰国後は、政治家になるまで台灣の大学で教授をしていました。中国に対して毅然とした態度を取りながらも、すでに台灣は独立した国家であり、あえて台灣独立を宣言する必要ないといった過激派とは一定の距離を置くスタンスを取っています。

そんな素晴らしい経歴を持った蔡総統とペアで副総統に選ばれたのは陳建仁さんです。台湾大学の医学部大学院・公共衛生研究所で修士号を取得し、米国のジョンズ・ホプキンス大学で公共衛生に関する博士号を取得した公衆衛生のプロです。2003年のSARSが流行したときには行政院の衛生署署長を務めていました。(1月の選挙の結果、5月20日から台湾の副総統は賴清德さんになります)

また、台湾大学の医学部で公衆衛生の修士号を取得した陳其邁さんが副首相に、中学中退でトランスジェンダーという異色の経歴を持ちながらも天才プログラマーとして実績のある唐鳳さんが行政院のデジタル担当大臣に任命されています。

理由①:発生地中国以上に判断の早い対策

今年の1月に新型コロナウイルスの流行が中国武漢で発生したとメディアを通じて世界に伝わり、中国は1月23日に武漢のロックダウンを開始しました。一方で、台湾は昨年の12月末に新型の肺炎が中国武漢で発生したという情報を既に入手しており、中国より早く対策を取り始めます。なお、この情報を台灣の政府機関がWHOに伝えましたが、WHO側は無視をしたと言われています。このWHOと台湾に関する件についてはまた別の回で取り上げたいと思います。

台灣政府はその情報をキャッチした後、すぐに武漢−台灣間の直行便の検疫を開始します。そして、武漢のロックダウンが開始される1日前の1月22日に、武漢−台湾間の団体旅行の往来を禁止しました。中国に忖度しているといわれているWHOの緊急事態宣言発表が1月31日であったことを考えるとこれは非常に早い決断だったと思います。

さらに、2月6日には中国全土から台湾への入境を原則禁止し、3月19日には全世界にその適用範囲を拡大しました。

初動の早さは、中国と距離が近いことと同じ言語を使用していることに起因するところが大きいと思いますが、早期に武漢からの往来を禁止し、外国からの入境をいち早く禁止できたことは台湾政府の決断力の現れだと思います。

理由②:街での対策

台湾の街では、感染拡大を防止するために日本より厳しい対策が講じられています。

一部の飲食店やオフィス、大規模な地下鉄の駅などでは、係員が非接触式の体温計を使用し、37.5度以上の熱がある人は入場を禁止しています。この対策により、新型コロナ感染の疑いがある人との接触確率を下げ、さらに、国民が外出時に発熱がないか自己管理をするように促しました。

地下鉄については、現在マスクの着用無しで構内へ入ることはできません。マスクをせずに構内へ立ち入ると罰金を課せられることになっており、実際に支払いを命じられたケースも発生しています。

また、新型コロナウイルスが発生してから始まったことではありませんが、台湾の公共交通機関は衛生管理のための消毒を徹底しています。具体的には、ターミナル駅に電車が到着するたびに車内のつり革や手すりを殺菌消毒し、駅の改札や券売機についても4時間毎に消毒しているそうです。

新型コロナウイルスの対策で有効なのは、言うまでもなく手洗いです。つまり、手にウイルスを付けないことですので、そもそも人間が触れるものからウイルスを除去しようという作戦です。この対策は今後日本でも必要になるかもしれませんね。

なお、個人差はあるかもしれませんが、私の知る範囲ではウイルス対策に対する台湾人の意識は日本人に比べて高いと思います。

新型コロナが流行する前から、手を殺菌するためのサニタイザーを使用している人は一定数いましたし、私の妻は、私が家に帰るとすぐにシャワーで体を洗い、外出時に来ていた服は隔離するように促してきます。妻自身も子供を家において家に帰ってきたときは、シャワーを浴びて着替えるまでは子供に触れないようにしています。

街のあちらこちらで手洗いや感染防止に関する告知がされており、それが国民の意識向上に貢献しているのかもしれません。私は当初過剰だと思ってしまっていましたが、これくらいしないと新型コロナに太刀打ちすることはできなかったということでしょう。

理由③:厳しい渡航先と濃厚接触のチェック

日本と異なり、台湾の渡航先や感染者との濃厚接触有無のチェックは非常に厳しいです。

民間企業においても週末に海外旅行へ行っていないかなどきちんとチェックが行われます。新型コロナの発生地へ行っていた場合や感染者と濃厚接触があった人は、14日間隔離生活をしなければなりません。とある旅行会社においては、海外旅行に行った友人にプライベートで会っていた場合も隔離の対象となるようです。

もちろん自己申告制ではあるのですが、虚偽の報告をすれば罰則を課されます。

新型コロナの発生源である武漢へ出かけた人が、台湾帰国時に症状があるにも関わらず、それを隠したことが理由で30万台湾ドル(約100万円)の罰金を科される事件も発生しました。これは、感染拡大初期の1月25日のことです。この件により台湾政府の本気度が伝わり、国民も協力することへの意識が高まったのかもしれません。

2月21日からは国民健康保険証とパスポートの海外渡航歴をリンクして、病院での受診時に患者が海外へ渡航したかどうか分かるシステムを構築しました。また、渡航禁止地域から帰国後は携帯電話の番号を政府のデータベースに登録することになっており、自宅隔離期間中に外出をすると、GPSによりルールに違反したことが発覚する仕組みになっているようです。

ちなみにですが、台灣では自宅隔離の対象となると1日1,000元(約3,800円)の協力金が支給されます。こういった制度があれば、職場を離れても少しは安心ですね。

理由④:3密を作らないための観光地の対策

感染者数の拡大を抑え込めている台灣では、欧米などの首都ロックダウンや日本のような外出自粛といった状況にはなっておらず、国内を旅行することも可能です。ですので、観光地も営業しており、国内の経済は外国人観光客がいないことを除いて通常どおり動いています。

しかし、人が密集するとクラスターが発生する可能性がありますので、いわゆる3密の状態が発生しないように政府がコントロールしてます。例えば、ある観光地においては、入場可能者数は通常の50%までとし、入場可能者数の25%を超えたときは、その観光地に向かっている車に対して、別の観光地へ向かうように高速道路の電光掲示板などで通知しています。

台湾名物の夜市においても可能なところでは出入り口を統一して入場者を制限したり、飲食スペースについたてを新規設置したりして、飛沫感染を防ぐ試みが行われています。

レストランにおいては、客が隣り合って座らないように、椅子にバッテン印などをつけることで、離れて着席するように促しているところもあります。

理由⑤:幽默さでSNSを活用

中国語では「幽默」と書いて、ユーモアを表します。(ちなにみ発音はヨウーモー)

台灣ではユーモアなイラストがSNS上でバズり、政府のメッセージが国民に届きやすくなっています。

1つ目は、ものの買い占めを防ぐことを目的とした「台湾には食料や物資が十分にある」ことを伝えるイラストです。日本においてはトイレットペーパーやティッシュペーパーがドラッグストアやスーパーからなくなりましたが、台湾においても缶詰などの保存食がスーパーの棚から姿を消しました。

そこで、日本でいう首相にあたる行政院長の蘇貞昌さんは3等身のキャラクターに扮して、コミカルに国民に向けて「好きなだけ買ってください。在庫はたくさんありますので」と訴えかけました。買い占め騒動が起きている中、政府の要人が好きなだけ買ってくださいと、少し過激で皮肉な発言をすることで、実際にものがなくなる心配はないんだということが国民に伝わりました。また、首相の滑稽な姿が話題になり、ニュースで取り上げられるだけでなく、SNSにおいても、さらには外国メディアにおいても話題になりました。

2つ目は、ソーシャルディスタンスをキープすることの大切さを伝えるイラストです。これには、日本の柴犬が使用されました。室内においては柴犬3匹分(1.5m)、室外においては柴犬2匹分(1m)の距離を置きましょうといったことが可愛い柴犬とともに描かれています。この絵が大変可愛いと多くの人にSNS上でシェアされました。

理由⑥:ITツールを活用したマスクの安定供給

最後は日本でも話題になったマスクについてです。

日本においては、もっとも感染が拡大している時期に町の薬局ではマスクを買うことができず、インターネットで高値で取引がされていることが問題となりました。一方台灣では、マスクが安定供給されるように早めに対策が講じられました。

まずは、1月24日にマスクを輸出禁止にし、同31日には政府が国内に流通する全てのマスクを買取った上で、購入は一人3枚までに制限されました。しかし、それでも、店をはしごしてマスクを買う人が出たため、2月6日からは国民健康保険証を活用して実名制で購入履歴を管理することにしました。購入できる数量は1週間に一人2枚までで、販売店舗は特定の薬局のみとし、公平にマスクが国民に行き渡るように対策を講じました。

ですが、ちょうどよくすべての薬局に人が分散するわけではないので、多くの人が殺到する薬局ではマスクが売り切れ、たらい回しに会ってしまう可能性がありました。そこで、台灣のIT大臣・唐鳳さんが率いるチームが開発しのが「マスク配布管理システム」です。

このシステムは薬局のマスクの在庫状況がわかるもので、これにより多くの人が無駄足を踏まずに済むことができるようになり大変好評でした。2月6日よりこのシステムは利用可能であったようです。つまり、数日間で製作されたことになります。その決定と開発の早さには驚かされるばかりです。

また、3月12日からは「e-mask」というマスク予約システムの運用が開始され、インターネット上でマスクを予約し、街のコンビニやスーパーで受け取ることができるようになっています。これにより現在は、全ての国民が安心してマスクを確保できる環境が整っています。

なお、国内のマスク生産体制を強化し、政府がマスクの配給を管理しているので、価格は1枚5元(18円)、つまり50枚で約900円と適正な価格が維持されています。

編集後記

今回は台湾の新型コロナ対策についてまとめました。

多くの国が政府の対応に失望している中、台湾においては国民の政府に対する信頼が大きく高まりました。

今回の成功の根本的な背景には、2003年に発生したSARSを抑え込むことができなかったことにあると思います。台湾はSARS発生時、674人の感染者、84人の死者を出してしまいました。同じ過ちは繰り返さないと、翌年には国家衛生指揮中心という政府機関を立ち上げて防災システムの強化に努めてきました。

今回の一連の出来事を見ると、台湾は今の時代に合った措置を講じていると私は感じました。

現代社会は多くの人がSNSを使って情報を収集しますので、少しばかりふざけた内容であっても、SNSで話題になるものを政府が発信できるということは多くの人にメッセージが届けられるということです。

GPSを使った自宅隔離の実施チェックについては、賛否両論あるかもしれません。私権の行動を抑制することは、独裁につながるので良くない、そもそも基本的な人権が守られていないと批判されますが、多くの人の命を守るためには必要な措置であるのではないかと思います。IT化が進む中で、プライベートに関する考え方も今後変わっていくと思います。中国においては、街中に監視カメラが設置されていても、国民は普通に生活していますし、個人がどんどん顔出しをして、ユーチューブで活躍していく世の中です。ITを有効に活用して、多くの人の命を守っていくためにもプライバシーの考え方も今後変えていなければならないのかなと感じています。

数日間で作ってしまったというマスク配布管理システムについては本当に圧巻です。日本政府には絶対にできないことでしょう。まず、唐鳳さんのような人は日本では決して大臣に任命されません。中学中退で大学にも行っていなくて、さらにトランスジェンダーという異色の経歴を持つ人であっても実力があれば大臣に任命するのが台湾の懐の広さだと思います。

台湾の政治家の顔ぶれを見ると、みな、学歴も実績も華々しいです。一方日本の政府を見ると、(決して嫌いというわけではないのですが)親の経歴がすごい人ばかりで、少し頼りないなといった印象を受けてしまいます。学歴が全てとは言いませんが、2流の大学の人ばかりであっても政権が続いてしまうんですよね。停滞している日本を表している感じがします。

人口ボーナスにより成長している時代は、どんな人が政治家であっても良かったのかもしれませんが、人口が減少する時代においては、本当に実力のある人に政治家になってもらいたいものです。といってもに、日本は一度道から外れてしまうと、もとの道への復帰が大変難しい挑戦しづらい社会だと私は考えています。日本も諸外国のように雇用が流動的になって、再チャレンジできる環境が整えば、もっと有能な人が政治家になってくれると思うのですが・・・。

最後は少々脱線し、自国の批判になってしまいましたが本日はこのへんで。

最後までお読みいただきありがとうございました。

以上

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