台湾

『路(吉田修一著)』の感想 壮大な台湾新幹線プロジェクトを舞台にした台湾ファン必読の長編小説の魅力を徹底紹介

ユウ

先月NHKで、吉田修一さんの長編小説『路』を原作としたドラマが放映されました。原作に忠実な盛りだくさんのストーリーを全3回に詰め込んだ急展開するストーリーに賛否両論ありましたが、台湾人を妻に持ち、数え切れないほど台湾を訪れ、台湾に行ったときは、ほぼ毎回台湾高速鉄道を利用している私からすると大変興味深い物語でした。

ドラマだけでは飽き足らず、小説版も読みましたので今回は物語のあらすじとその感想、そして魅力をあますところなく紹介したいと思います。

ちなみに『路』の読み方は、中国語読みをして「ルー」ですよ。

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物語のあらすじ

物語の舞台は2000年に大手商社大井物産が台湾新幹線の受注に成功することから始まります。入社4年目の多田春香は台湾への出向を命じられ、女一人で台湾での生活を始めます。春香にとって台湾は駐在する前から特別な場所で、エリックという台湾人男性と1日限りの大切な思い出のある地なのでした。

2人は再開することを約束しながらも、春香が電話番号メモを亡くしてしまったことから、再会を果たすことができずにいました。しかし、運良くも出向先の同僚からエリックの連絡先を入手し、2人は再会を果たすことになります。一方で、春香には日本で長年交際している彼氏がおり、彼とは遠距離恋愛をしながらも、エリックとの間で心が揺れ動いていきます。

台湾の人々と過ごす中で、春香の心境は徐々に変化していき、いつしか、台湾の人を支援する仕事がしたいと思うようになっていきます。7年にも渡る壮大な台湾新幹線プロジェクトをテーマにした日本人と台湾人の絆を描いたラブストーリーです。

著者紹介

著者は1997年に「最後の息子」で文學界新人賞を受賞した吉田修一さんです。

吉田さんは大の台湾好きでこの小説を完成させるまでに30回以上も台湾に訪れたそうです。『路』を書き終える十数年前に台湾に初めて訪れ、台湾の街の雰囲気が出身地の長崎に似ていることから興味を持ち、何度も訪れるようになったとのこと。小説の中では、台湾の街や人が具体的に描写されており、実際に何度も足を運んで物語を綴っていったことが伺えます。

『路』は中国語にも翻訳されており、吉田さんはいまや台湾でも人気の作家となっているようです。台湾のインターネットサイトで「吉田修一」と検索すると多くの台湾人ブロガーが吉田さんの小説の感想を書いています。

登場人物

多田春香

『路』の主人公で、大手総合商社・大井物産の総合職員。大学時代に金城武をきっかけに台湾に興味を持ち、幾度となく台湾を訪れています。台湾好きであることが功を奏して(?)、入社4年目にも関わらず台湾新幹線プロジェクトに参画するため台湾駐在員に大抜擢されます。性格はたまに人を苛立たせるほどポジティブ。

山尾部長

大井物産の台湾新幹線プロジェクトリーダー。通販商品のモデルに出てきそうな渋い出で立ちですが、つまらないダジャレや猥談で場を和ます若手と距離の近い部長です。物語の終盤では台湾人特有ののんびりとしたスケジュール感に悩まされます。

安西誠

大井物産の台湾新幹線プロジェクト担当者で、物語の開始時30代後半のベテラン社員。妻と息子が一人いますが、単身で台湾に駐在しています。台湾の繁華街林森北路にあるクラブ「クリスタル」のホステス「ユキ」と関係を深めていきます。

池上繁之

主人公・多田春香の彼氏です。大学卒業後、東京のホテルで接客業を担当しています。仕事が多忙なため体調を崩してしまいますが、春香とギクシャクとした遠距離恋愛を続けながらも、少しずつ病気を克服していきます。

葉山勝一郎

妻に先立たれ、東京で一人暮らしをしている70代の老人で、日本統治時代の台湾で生まれたいわゆる湾生です。大学では交通工学を学び、卒業後は大手建設会社の熊井建設に就職し定年まで勤め上げました。定年後は建設コンサル会社の顧問をしていましたが、70歳を手前にして引退し、東京で一人暮らしをしています。

エリック

台湾台中出身の20代の台湾人男性。中国語名は劉人豪(リュウ・ジンゴウ)。台湾台北の淡江大学で建築学、日本の大学院で環境デザインを学んだ後、日本の建築会社に勤務しています。阪神淡路大震災が起きる前の1995年に台湾で春香と出会い、ずっと忘れることなく春香に思い寄せています。

ユキ

台北の歓楽街林森北路のクラブ「クリスタル」のホステスです。台湾側企業との交渉難航に悩む安西誠を癒やすうちに、少しずつ2人の関係は深まっていきます。

林芳慧(リン・ファンホエ)

大井物産台北支店のローカル採用の女性社員です。春香と同年代であり、春香とはプライベートでも付き合う仲です。

呂耀宗(ルー・ヤオゾン)

葉山勝一郎の旧制臺北高校時代の同級生です。日本統治時代の名前は中野赳夫。現在は台北市内の大きな病院を経営しています。

陳威志(チェン・ウェイズー)

台湾第2の都市高雄出身の青年です。高校卒業後は、六合夜市でバイトをしたり、兵役ではプールの監視担当になってしまったりと、一見冴えない普通の青年ですが、台湾新幹線の整備士として立派に成長しシングルマザーの張清美と結ばれます。

張青美(ジャン・チンメイ)

台湾高雄出身の女性です。カナダに留学するも、留学先の日本人男性と関係を持った後に妊娠し、相手側からは堕ろすことを求められますが、台湾に戻りシングルマザーになります。子供のニックネームは「振振(ツェンツェン)」。

物語の魅力

新幹線輸出という壮大な物語

物語の台湾新幹線プロジェクトは1997年に、台湾新幹線の入札争いで、日本のライバル欧州勢が優先交渉権を獲得したところから始まります。しかし、台湾大地震が1999年発生したことを機に、同じ地震大国の日本の技術を導入することのメリットを主張する声が強まり、2000年に日本側が受注に成功します。

1964年に開業した日本の新幹線は、死亡事故が一度もなく世界に誇れる技術ではありましたが、世界に輸出されたことは未だになく、今回の台湾が初めてでした。予定される路線は、台北市と隣接する新北市の板橋から南の第2の都市高雄・左營を90分で繋ぐものです。これまで台北と高雄の移動は4時間以上かかっていましたので、新幹線が通れば人の移動が活発になり、経済が活性化すると多いに期待されました。

車両は日本のN700系を改良したT700系で、台湾名産のマンゴーのようなオレンジ色は、台湾の雰囲気にぴったりでとてもかっこいいです。名前が似ているだけでなく、車体のベースも日本の新幹線ですので、客室の座席は2つと3つに分かれた日本ではおなじみの形式です。

1997年に最初の入札があり、実際の開業は2007年ですので、約10年の時を経て、日本の新幹線が台湾を走ることが実現します。新幹線プロジェクトを中心に、物語は時系列に進み、登場人物たちの心境が少しずつ変化していく様子が生き生きと描かれ、終盤にはそれぞれの人物のストーリーつながっていく壮大なストーリーです。

【ネタバレ注意】4つの切ないラブストーリー

物語は4つのストーリーを軸に進んでいきます。「春香とエリックのの8年越しの恋」「クラブから始まった安西とユキの恋」「葉山勝一郎の台湾時代の三角関係の恋」「陳威志のシングルマザーとの恋」です。この後はネタバレになりますので、小説を読んだときのために楽しみを残しておきたいという人は、この項は飛ばして下さい。

「春香とエリックのの8年越しの恋」

主人公・春香とエリックの恋は、春香が大学時代の1995年に台湾を一人で訪れ、ガイドブックに乗っているお店を通りすがりの台湾人青年エリックに尋ねたことから始まります。

春香は翌日の淡水観光で、奇跡に的にもエリックに再び出会います。そして2人は、スクーターに一緒に乗って紅毛城をデートするなど、楽しいひと時を過ごす中でお互いに惹かれ合っていきます。その後、2人はまた会う約束をし、エリックは帰国する春香へ電話番号メモを渡すも、春香は紛失してしまします。お互い連絡が取れない状況になってしまいますが、2人の恋は冷めることはありませんでした。

エリックは1995年の阪神大震災後に春香の地元神戸を訪れますが、再開を果たすことはできませんでした。一方、春香も1998年の台湾中部大地震の1ヶ月後に台湾を訪れ、1995年に台湾行ったときに訪れたエリックの家を探しますが見つけることはできず、お互いにすれ違ったままでいました。

それから時が流れ、それぞれ恋人ができますが、二人は台北で過ごした1日を忘れることはできず、お互いの心に未練を残したままの日々を過ごしていきます。

しかし、春香の駐在先の同僚がエリックと思われる男性と同級生であることが判明し、二人の恋心に再び火が付きます。しかし、このとき既に彼氏がいる春香。エリックへの思いは如何に。

「クラブから始まった安西とユキの恋」

安西誠は仕事での苦労から癒やしを求め、台北の歓楽街・林森北路のクラブ「クリスタル」に通うようになります。そこで、出会うのが新人ホステスのユキです。

安西は仕事のストレスから悪酔いすることが多く、ユキを蔑むような発言をしてしまうこともありますが、本気で安西のことを心配するユキの優しさに安西は少しずつ思いを寄せていくようになります。安西は既婚者で子供もいますが、台湾には単身赴任をしており、家庭関係はうまくいっておりません。

安西は台湾に来てからはずっと張り詰めた状況が続いており、プロジェクトの途中、極限の疲労から部長から休職を命じられてしまいます。休職中、ユキの優しさに支えられた安西は、仕事での活力を取り戻し、台湾新幹線プロジェクトの大井物産主担当者として、プロジェクトを成功に導いていきます。

「葉山勝一郎の台湾時代の三角関係」

葉山勝一郎は日本統治時代の台湾に生まれたいわゆる湾製で、高校時代までを台湾で過ごしますが、日本へ引き上げ後一度も台湾に行っておりません。

かつて、勝一郎は旧制台北高校に通い、台湾出身の中野赳夫という同級生がいました。中野は、曜子という後に勝一郎の妻となる日本人女性のことが好きでした。当時は、太平洋戦争真っ只中でしたが、戦争が終わって無事戻ることができたら、曜子に婚約を申し込むと中野は言います。

その話を聞いた勝一郎は「お前は日本人じゃない。二等国民との結婚を曜子さんのご両親が許すだろうか」と口にしてはならないセリフを吐いてしまします。その後日本は終戦を迎え、勝一郎は曜子と結婚しますが、中野に言ってしまった言葉を忘れることができず、ずっと台湾を避けてきました。

勝一郎は70歳を越えて妻に先立たれますが、以前は妻が管理をしていた旧制台北高校の会報誌を見つけ、台湾に数十年ぶりに「帰る」ことになり、台湾で大病院の医院長になっている中野赳夫(中国語名:呂耀宗)に再開します。自分の育った台湾の地に戻った勝一郎は、中野の勧めで台湾で生涯を終えることを考え始めます。

「陳威志のシングルマザー張清美との恋」

台湾南部に位置する台湾第二の都市高雄出身の陳威志は、グワバ畑で中学時代の同級生張美青と再開します。彼女はカナダへ留学中でしたが、ちょうど台湾に一時帰国中でした。

その数カ月後、威志は友人と台湾南部のリゾート地墾丁を訪れたときに、中学時代の共通の同級生に会い、張美青がカナダの大学をやめて台湾に帰ってきたことを知ります。張美青は留学先の日本人男性に孕ませられ、相手の親から「息子の将来が台無しになる」と子供を堕ろすことを要求されたため、自分ひとりで子供を育てることを決心します。

陳威志の祖母と張美青は交流があり、美青はよく子供を連れて陳威志の祖母の家に遊びに来ます。陳威志は父親のように美青の子供と遊び、いつしか、2人は夫婦の関係へとなっていきます。

また台湾に行きたくなる台湾通を唸らせる描写

この作品は、台湾の情景が目の前に浮かんでくるような生き生きとした描写が印象的です。具体的な台湾の地域名称・台湾の文化など、台湾人を妻に持つ私も「それ分かる〜」といったような台湾通を唸らせる描写が多く登場します。日本人からすると、やっぱりそこ気になるよねと、吉田さんに共感したエピソードを紹介します。

台湾B級グルメ

台湾には旅行者を虜にする多くのグルメが存在します。『路』では「小籠包」「魯肉飯」「紅豆湯圓」「排骨飯」など有名台湾料理が多く登場します。台湾が好きな人・台湾に住んだことがある人にとっては、「ああ、台湾独特の香りがする料理をまた食べたい」と思ってしまうことでしょう。

他にも、台湾のご飯はパサパサしており、ちょうど昨晩のご飯を温め直したような感じだが、我慢して食べているうちに味の濃い台湾料理にはこの方が合うことを感じられ、逆に日本に帰るとあのモッチリとした食感な喉につかえてしまう、といったような描写が登場します。何度も台湾に行っている私からすると、思わず「それ分かる」と唸ってしまいます。

バス・タクシーの運転が乱暴

これも台湾に行ったことがある日本人ならみんな分かると思います。私が特に面白いなと思ったことは、安西が台湾生活に慣れ親しんだ後に感じた「東京でタクシーに乗るとわざとノロノロと走っているのではないかと逆にイライラさせられる」という話です。すごく分かります。台湾のタクシーに慣れると、日本のタクシーって高いし、何であんなにバカ丁寧なんだろうと思っていまします。無駄に夏でもスーツ着て、白いグローブまでしちゃってるし・・・。台湾のタクシー運転手なんて、半袖短パンに自分の趣味のラジオを流して運転しています。

台湾の冷房は効きすぎ

台湾のデパートやレストランは激寒です。物語の中でも、効きすぎるエアコンに悩まされる主人公の姿が描かれています。私は現在33歳ですが、日本も私が小学生の頃はデパートやスーパーではガンガンに冷房が効いていた記憶があります。しかし、現在はecoが叫ばれて、常時28度設定というところが多いですね。(あの爽快感が懐かしいです)

台湾ではまだまだ冷房を強めに効かすということが集客のために重要なようです。多くのお店の入り口には「冷氣開放中」と書いてあり、店内はクーラーが効いていて気持ちいいですよということをアピールしています。

基本は外食で家で料理を作らない人も少なくない

主人公春香の同僚は両親と弟と一緒に暮らしていますが、朝ごはんは決まって外でお粥か揚げパンを食べているという場面が出てきます。台湾には安くて美味しい外食がたくさんあり、朝ごはん専門店も多くあります。そのため、家ではご飯を作らず、いつも外で食べるという家庭も少なくありません。中にはキッチンさえない家もあるようです。つまり、料理できない女の子も結構いるということです。(私は気にしません。ちなみ私の妻は料理ができます)

台湾は多言語社会

少し中国語をかじったことがある人であれば、日本人を中国語で「リーベンレン」(私はカタカナで表すことが嫌いですが)ということを知っていると思います。

主人公の春香は、エリックが老夫婦と中国語以外の言葉で話しているのを聞いて、台湾語では日本人を「リップンナン」と言うことを知ります。そうです、台湾の公用語は北京方言を基礎とした「國語」、いわゆる中国語ですが、台湾語も話されています。特に南側の高雄においては、台湾語を話す人口は多いようです。

その他にも、桃園、苗栗地域においては、客家語を話す人たちもたくさん暮らしております。そのため、台湾の地下鉄に乗ると、中国語、英語、台湾語、客家語の4つの言語で社内アナウンスが行われます。また、台湾の原住民独自の言語もあり、台湾は九州程度の小さな島ではありますが、多くの言語が存在している多言語社会なのです。

台湾人は英語名を持っている人が多い

この物語に出てくる劉人豪は台湾人ですが、春香と出会ったときはエリックという名前を使っています。私の台湾人妻も英語の名前持っていて、私は妻のことを日常的には英語名で呼んでいます。以前から、なぜかなと思っていたのですがこの小説が解決してくれました。

中国語の名前は英語の発音からすると非常に発音しにくいため、中学の英語の授業では先生が生徒に英語の名前を付けるらしいです。そのため、台湾人は外国人と交流するときは、英語名を使うみたいですね。

確かに中国語には、英語にも日本語にもない発音があります。「日(ri)」「中(zhong)」「劉(liu)」「喝(he)」「吃(chi)」など、日常的によく出てくる表現だけでも挙げ始めたらきりがありません。一方で日本人の名前は外国人に発音しやすそうですね。

結婚の前撮り写真がド派手

安西とユキが結婚をするときに、前撮りのカタログを見て一般人とは思えない豪華な写真が並んでいるという描写が出てきます。台湾人と結婚した私からすると、まさに「分かる〜!」です。

台湾の結婚ビジネスは随分と発展しており、結婚の前撮りでは、映画のワンシーンのような写真を撮ります。実は私も奥さんと結婚する前には、台湾にて顔に化粧をして、スーツを来て、蝶ネクタイをして、カジュアルな服にサスペンダーを付けて・・・。といった感じで日本では撮らないような写真をたくさん撮りました。

台湾のマンションのドアは防犯用と通常用の2枚

安西とユキは台北の公館(ゴングァン(地域名です))でマンションを借りますが、防犯用と通常用のドアの2つを空けて中に入る姿が描かれています。これもすごく分かります。台湾のマンションの扉は、外側にアルミでできた檻のようなドアがあって、内側に普通のドアがあるのです。

明確な理由はわかりませんが、私の妻によればただ単に安全性が高いからとのことでした。1枚目が網戸になっているものもあることから、蚊よけの意味や家のドアを空けておいても光が入ってくるからといった理由もあるようです。かつて、戒厳令が宣言されていて、国の治安が悪かったからとか、そういった意味ではないようですね。

台湾は1987年まで戒厳令が敷かれていたこと

日本の植民地時代が終わったあと、蒋介石率いる国民党が台湾を支配します。白色テロと呼ばれる一党独裁の恐怖政治下では戒厳令が敷かれ、軍により統治が行われました。そのため、言論の自由や政治活動は制限され、反政府活動を行った人々は逮捕されたり処刑されたりしました。

1987年の戒厳令解除後の1991年に戒厳令発令のきっかけとなった二・二八事件を描いた「悲情城市」が公開されますが、『路』の中では勝一郎が微動だにせず「悲情城市」が放映されるテレビ画面を眺め、自分が台湾にいた頃の生活を回顧する姿が描かれています。

現在は東アジアの先進民主主義国家として一定の地位を築いている台湾ですが、世界最長の38年間という非常に長い期間戒厳令が敷かれていた暗い過去を持った国なのです。

南の第2の都市高雄ではスクーターで3人乗りをしている人がいる

物語の中では、陳威志と張美青、その息子の振振がスクーターに3人乗りで六合夜市を訪れる姿が描かれています。台北はMRTなどのインフラが整い、TAIPEI101が建設されるなど、洗練されたアジアの先進地域といった雰囲気がありますが、南の高雄ではまだまだ発展途上の東南アジアの雰囲気が残っています。

私の妻のお父さんは高雄出身ですので、私も1年に1度は高雄を訪れるのですが、台北と雰囲気がかなり違うなと感じます。ノーヘルでバイクに乗っている人も結構見かけるぐらいです。(ちなみに違法です)

時間の感覚が緩い

日本人は時間に厳しくて、外国人は時間にルーズということはよく言われます。この小説でも、台湾新幹線プロジェクトの遅延に悩まされる大井物産社員の苦悩が多く描かれています。(ちょっと強調しすぎなように私個人としては思います)ちなみに、私も妻とよく時間のことですれ違うことがありますが、重要な場面ではちゃんと守ってくれますよ。(私が厳しく言うからかもしれませんけど)

全体としての感想

ビジネスに興味があって、台湾人の妻を持ち、台湾に何度も足を運んだことがある私にはドンピシャに刺さる小説でした。新幹線輸出という壮大なプロジェクトに以前から興味がありましたし、台湾について少し詳しい人であれば、それ「分かる」と共感できる台湾の文化や台湾人の特徴が描かれていて、終始感情移入して読むことができました。

近年では日本人の海外旅行先として最も人気の高い台湾ではありますが、まだまだ日本人は台湾に対する理解が弱いと思います。台湾人は常に日本に対してラブコールを送ってくれていますが、台湾と香港を混同する人、台湾と中国の関係について疎い人が多くいることも事実です。数年前にとあるアイドルが台湾と香港のことを間違えていましたね。

小説の中でも、台湾の人が日本を思う気持ちと比べると、日本人が台湾のことを知ろうとする気持ちは、あまりにもお粗末としか言いようがないといった表現が出てきます。これは、著者の吉田さんから読者へ向けた一番のメッセージなのではないかと思いました。

吉田さんの台湾への愛が感じられる1冊です。この本を読めば、あなたも台湾通になれるかもしれません。

この小説を読んでもらいたい人

  • 台湾大好きな人。
  • 台湾旅行に行ったことがある人。またはこれから行こうと思っている人。
  • 日本の新幹線ファン。
  • 国際恋愛に興味がある人。
  • 国際ビジネスに興味がある人。

以上

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カメラと写真が好きな台湾人の夫のブログ(工事中)
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